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前回のコラムでは、金ちゃんがいよいよ淡路プラッツで働き始めた回でした。今回は、金城青年と『学くん』との出会いの話。はじまりはじまり。
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この頃には金城青年もすっかりプラッツの一員になっていた。そんなある日、運命の出会いがあった。
それはソフトボール対外試合の日。初めて見るメンバーがプラッツに来ている。
小柄で長髪、可愛らしく最初は女の子?と思ったが、ガラガラ声の男の子。
小学6年生の彼は、後に金城青年に多大な影響を与えた山本学くんである。一人でポツンと座っている学くん。小学生だし緊張しているのだろうか?蓮井氏とは親しげに話していた。
私は自転車で通勤していたので学くんの送迎を頼まれていた。初対面なので挨拶する。学くんはジロッとこちらを一瞥するだけで挨拶もなかった。
「今日試合場まで送ってくれるんやろ、頼むから安全運転してや」
口調といい態度といい全く可愛くない。
金城青年が、そんなことを思っていると蓮井氏に呼ばれた。珍しく真剣な表情で蓮井氏が話す。
「あのな、学やけどな、あいつ重度の心臓病やねん、注意してあげてな」
そういわれてみたら、学くんは小学6年生にしては小柄で色白だった。
さて、ソフトボール会場に向かう。他のメンバーは徒歩だが金城青年は自転車の後ろに学くんを乗せて出発する。
「学くんはどこから通っているの?」
「野球好きなん?」と尋ねるが、学くんは「……」。
返事がないので気分でも悪いのかと後ろ振り返ると、学くんは無愛想な表情だった。
「ちゃんと前見て運転してや、危ないやんか」と学くん。
いや〜実に口を開くと憎たらしい小僧である。
終始無言でソフトボール会場へ。対戦相手は某フリースクールだ。
「アホ〜ボケ〜」と野次が飛ぶ。
かつて反対側のベンチから眺めていたプラッツベンチに自分も座っている。もちろんエビスビールをグビグビ飲みながら。
学くんは重度の心臓病だが、大の野球好きときた。
守備の定位置はセカンドで打順は2番と決まっている。重度の心臓病なので走ってはいけないし、激しい運動もダメだからである。
力も弱いので、ボールをバットに当てても飛ばない。しかし打ったら学くんは全力で走る。
その度に横にいる蓮井氏が「ひ〜〜あ〜〜」と情けない声を出す。
全力で走るが内野ゴロなのでアウトになる。
とぼとぼ戻ってくる学くんに一声かける。「あそこはヘッドスライディングやぞ!」
学くんは「ひゃ〜ひゃ〜確かに!」と爆笑する。
さんま風に引き笑いする学くんに、「引き笑いやなく吐きながら笑え」と蓮井氏が突っ込む。
「あはは、あはは」と少々気持ち悪い笑いになる。
「もうええわ!」
学くんは、他のどの居場所に行っても「大丈夫?」「無理しないでね」と心配される。腫れ物のように扱われる。それが嫌だったのだ。
学くんの次の打席、コツンっとバットにボールが当たる。全力疾走の学くん、1塁に到達前にやらかした。頭からヘッドスライディングした。蓮井氏が横で悲鳴をあげる。
「アウト!」
ゼーゼー言いながらベンチに戻ってくる学くん。
金城青年が突っ込む。「あそこはアウトやからスライディングして相手の1塁手負傷される場面やろ!」
手を叩いて爆笑する学くん。「あかん!心臓痛い!!」
「頼む!倒れんといてくれ!」絶叫する蓮井氏。
随分とひどい会話である。
無論、誰にでもこんな風ではない。配慮するメンバーもいる。学くんだから余計にこんな会話になる。
それが淡路プラッツの関わりなのだ。
この日の帰り。金城青年のの自転車の後ろに乗る少年は『学くん』から『アホのまなぶ』に変わっていた。
「もうちょっと早くスライディングしてたら綺麗やねんけどな〜」
「お前、アホやろ!」
「ひゃ〜ひゃ〜(引き笑い)」
これが山本まなぶとの出会いであった。
〜次回に続く〜